その調査の目的は10年以上も前に行方がわからなくなった男性を
捜して欲しいというものでした。詳しく聞くと、依頼者は幼いころに家庭の事情で両親と離れ施設に一時だけ預けられていたことがあるそうです。
そして転入した学校になかなか馴染めず、いじめを受けていた依頼者をかばってくれた少年がいました。
その少年が調査の対象者でした。
情報量は少なかったですが地道な調査の末に、成長したその少年の所在を見付けることができました。
依頼者に結果を報告した翌年、その依頼者は私を自分の結婚式に呼んでくれました。
その時の結婚相手こそが私が探しあてた“少年”だったのです。
「ありがとうございます、探偵さんの事は一生忘れません」
新婦である依頼者からそんな感謝の言葉を聞いたとき、誰かの役に立つということが、どれほど大切なのかを知りました。その当時の私はまだ探偵になって間もない頃で、どうすれば大きく鮮明な証拠写真が撮れるか、どうすれば効率よく尾行をできるか、技術を磨くことばかり考えていました。
その頃は、調査を成功させるのが最優先で、後のことはあまり考えず、「何の為に調査をするのか」
という、根本的なことを忘れかけていました。探偵が汗を流して足を棒にして調査するのは、ただ上手に写真を撮影するのが最終的な目標ではなく、その結果、依頼者が幸せになるということが目標のはずです。
フィリップ・マーロウのような探偵になりたい。
――それが自分の探偵としてのスタートだったと思い出したのです。
あれから年月も経ちましたが、依頼者の方の悩みを解決するだけでなく、逆に依頼者の方から大きなパワーを貰うことができるのも、「探偵」という仕事のおかげです。
これからも、原点を忘れることなく、探偵として、人として成長できるような組織を作っていきたいと思います。